撮って見た 其の55 ― 2012/10/29 18:39:48
甘野老(アマドコロ)
早くも現れた藪蚊に悩まされ乍、ひと月前に堅香子の咲いて居た広場に着くと甘野老が優しげに、控え目に花を付けて居た。
花の形やグリーンのグラデーション、咲き方は勿論、茎の撓り、葉の様子が可憐で見守って遣りたい気持に為る。 花言葉は、「心の痛みがわかる人」。
地上の優しい様子に対して、根茎は厳つい。 此の根茎の形がヤマノイモ科の鬼野老(オニドコロ)に似て居るが、苦い鬼野老と違って甘味が有るので此の名前が付いた。 「野老(トコロ)」は山芋の一種で、根塊を意味する「凝(トコリ)」から「トコロ」に変訛した。 「瀞りとした汁が出る」と云う異説も有る。 一方、「野老」の漢字は沢山の髭根や曲った根茎を老人の白髭や腰に模し、海の「海老」(曲がった腰を老人に見立てた)に対して、山野の「野老」としたそうだ。 ユリ科(ナギイカダ科)スズラン亜科アマドコロ属に分類され、「 Polygonatum odoratum var.pluriflorum 」が学名。 ポリゴナツムは希臘(ギリシア)語のポリス(多い)とゴヌ(節)の造語で、節榑立った根茎を意図して居る。

とても有用な植物で、春は山菜、秋には根菜(天麩羅が美味しいそうだ)或いは煎じて薬用にも出来る。(今はティーバックでの販売も有る) 生薬としての名称から「萎ずい(イズイ)」と呼ばれる事も有る。「王竹(ギョクチク)」や「姜蛇(キョウジャ)」と云う生薬名も有る。 古く「大和本草」では「黄精」の字を「アマドコロ」と読んで居るが、恐らくは非常に似て居る花の「鳴子百合(ナルコユリ)」と一緒くたにして居るのでは無いかと疑われる。 今は生薬の「黄精(オウセイ)」は「鳴子百合」の根を乾燥させた物を指す。 一方で、岩手県には「黄精飴(おうせいあめ)」と云う甘野老の根茎の煎汁を用いた伝統菓子が有る。 甘野老の薬効は顕著と迄は云えないらしいが、明の時代の「本草網目」に依ると、多くの効能の中に「身体を軽くし、老衰せぬ」と有る。 是非、御試しを(笑)!
似た花には前述の「鳴子百合」(小石川植物園でさえ間違えて居たと云う程だが、茎を撫でて稜が有る方を甘野老と区別する)や「姫萎ずい(ヒメイズイ)」、「宝鐸草(ホウチャクソウ)」等が有る。 ところが、花屋さんで混乱する。 店先を飾る「鳴子百合」や「斑入(フイリ)鳴子百合」は、「斑入甘野老」だ。 更に可愛く見せ様と葉に斑を入れた園芸品種で、確かにチャーミング。 「ナルコユリ」の名称の方が語感が良いのは判るが、困った物だ。
万葉集の「にこぐさ」は甘野老と云う説が有るが、季節感からすると異説の「箱根羊歯」なのかも知れない…が、両者は違い過ぎるなぁ。 家持の一首を挙げて置こう。
秋風に なびくかはび(河辺)の にこぐさの
にこよかにしも おも(思)ほゆるかも


