撮って見た 其の452012/05/05 11:51:21

蛇苺(ヘビイチゴ)
撮って見た 其の45-1
足元に綻び掛けた黄色の一輪。 蛇苺… 小生は干支を合わせて居ても、蛇は大嫌い。 本当に駄目… 一度、テレビのチャンネルを何気無く廻したら、「アナコンダ」と云う映画のハイライトシーンに遭遇して、胡坐を掻いた儘、50センチも飛び上がった(笑)。 そんな小生は、名前だけでこの花を忌避して来た。 この名前は中国名の「蛇苺(ジャモ)」から来て居るのだが、彼の国では不味い苺なので、蛇にでも呉れて遣れと云う事でこの名前を当てた様だ。 「クチナワイチゴ」の別名も有るが、クチナワとは蛇の事だ。 子供の頃に祖父の処に良く来られて居た北大植物学の大家、舘脇先生が「蛇が出る様な処に生えるので、そう云う」(恐らくは「そう云う説も有る」と仰ったのだろう)と話して下さった。 其れ以来、此の花の咲く路を避けて居た気がする。 此の日も黄色の花を目にして後ずさった位だから、「三つ子の魂…」なので有る。 毒苺と呼ばれる事も有るが、不味いだけで毒は無い。 寧ろ生薬としては中国の「蛇苺(じゃも)」の名で、解熱や痔瘻(洗浄薬)に用いる。 ヘビイチゴ属には、藪蛇苺と此の花の2種しか所属して居ない。 両者はとても似て居るが、前者の方が葉の色が濃く、外側の萼片(副萼片)の方が更に大きい。 実が成ると、前者の表面はザラザラした感じに見えるので、判別が付き易い。 「実」と書いたが、フルーツの苺(阿蘭陀苺:オランダイチゴ)同様に赤い部分は「偽実」で有る。 蛇苺の花には、多数の雄蕊と多数の雌蕊が有るが、実に見える赤い部分は「果床」(多数の雌蕊が付いて居る部分)と呼ばれる。 此の表面に有る突起が果実(ひとつの雌蕊がひとつの果実に為る)で、中に種子が有る。 此の様に果肉の無い果実を痩果(そうか)と云う。
名前の妙で芸能や芸術作品の題材に取り上げられる事も少なく無いが、萩原朔太郎の詩は、此の花の因果を弁えて居る様に思う。

實は成りぬ 草葉かげ 小(ささ)やかに 赤うして 名も知らぬ 實は成りぬ
大空みれば 日は遠しや 輝輝たる夏の午(ひる)さがり 野路に隱れて 唱ふもの
魔よ 名を蛇と呼ばれて 拗者(すねもの)の 呪(のろ)ひ歌(うた) 節なれぬ
野に生ひて 光なき身の 運命(さだめ)悲しや 世(よ)を逆(さかしま)に 感じては
のろはれし 夏の日を 妖艷の 蠱物(まじもの)と 接吻(くちづけ) 交す蛇苺

前年の記事で、此の花を「狐の牡丹」と記して居るが、大きな間違い。 こんなに背が低いのに間違うとはね。 いや、蛇苺にしたくなかったのだ(笑)。


烏野豌豆(カラスノエンドウ)
撮って見た 其の45-2
此れ以上にポピュラーな花も少ない。 生えて居ない空地を探すのが難しい位だ。 本名は「矢筈豌豆(ヤハズエンドウ)」だが、「烏野豌豆」以外の呼び方がされて居るのを聞いた事が無い。 矢筈の名は小葉(このフォトでは花に近い手前2枚の小葉が欠落して居る)の先端が窪んで居て、其れが弓矢の弦を受ける部分(矢筈)に似て居る事に由来する。 烏の謂れは、熟して黒く為った鞘の色とも云われて居るが、定かでは無い。 「野豌豆」は中国名其物で有る。 所属は「エンドウ属」では無くて、意外にも「ソラマメ属」。 確かに茎は四角いし、豆臍が長い様にも見える。 原産地はオリエントから地中海沿岸だそうだが(北米説も有る)、古代に於いては喰用に栽培されて居た。 今は誰も喰べ無いけれど、若芽や若花、若鞘は天麩羅にすると美味しいとか。 血行を促進し、利尿効果も有ると聞いた。 更に煎じた場合の薬効としては、胃炎・浮腫・解熱・黄疸・鼻血・月経不順等が挙げられて居る。
フォトでは判り難いので矢印を付したが、托葉(葉の付根に有る小さな葉状の突起)の部分に「花外蜜腺」が有る。 此の蜜腺に関して面白い話を伺った。 蜜は蟻を呼び寄せる目的で分泌されて居るのだが、蟻牧(アリマキ:アブラムシ)が集まって仕舞った。 だが、蟻牧は糖度の高い分泌物を出して、用心棒役の蟻を呼び寄せる。 典型的な共生のパターン。 当初の計画とは違うプロセスだが、烏野豌豆は蟻を呼ぶ事には成功したと云う事だ。 因みに、蟻の居る植物には他の虫が取り付き難い。 熟した果実は弾けて種子を飛ばすが、子供の頃に其の瞬間を眺めたくて、じっと見て居た。 だが、見て居る鞘は弾けない物だ… 想い出序でに、小学校の転入生に鞘で草笛を造る事を教えて貰ったなぁ。 そんな有り触れた懐かしい花だ。