撮って見た 其の39 ― 2012/04/08 07:11:34
編笠百合(アミガサユリ)
細い葉の先が巻くのが愛おしいが、強い風が吹いた翌日、御互いに確りと手を繋いで居る様子がユーモラスだ。 網目模様の花が俯いて咲く様子は美しいが、内側の模様が網目と云うよりも毒々しい斑点に見える事が有る。 実はアルカロイド満載の毒草だが、漢方薬としては鱗茎を鎮咳剤として用いる。 薬名の貝母(バイモ)は、鱗茎が二枚貝に似て居る事が由来。 バイモ属と云う分類を持って居り、黒百合等が仲間だ。 そう云えば、花形が似て居る。
柊南天(ヒイラギナンテン)/唐南天(トウナンテン)
マクロレンズで接写したこのフォトで花の名を当てられる人は、専門家の方だろう。 再外縁の花弁の様に見えるのは顎片。 花弁は其の内側で筒状に為って居る。 昆虫等が触れると内側に傾いて花粉を擦り付ける6本の雄蕊を撮りたかったのだが、掲載したサイズでは判り難いかも知れない。 強くは無いが意外に芳香な事が、マクロレンズの御蔭で確認出来た。 理由は定かでは無いのだが、小生は子供の頃から毒草だと思って、近づかなかった。 恐らくは柊同様、葉に棘が有るのが嫌だったのだろう。 この棘が「魔避け」に為るとか、南天を「難を転じる」と解釈したりして、縁起の良い植物とされる。 確かに防犯には役に立ちそうだ。 因みに柊はモクセイ科だが、柊南天は南天同様メギ科だ。 ヒイラギナンテン属に独立させるか、メギ属に入れるかの議論が有ったが、最近はメギ属に含まれるとする考えに傾いて居るらしい。 学名(Mahonia japonica)に「日本」の文字が入って居るが、原産地は中国か台湾で江戸時代に渡来。 薬効も有るとされるが、実際の薬には為って居ない様だ。
此方は無造作に撮った1枚。 F値を好加減に撮るとこう為る。 ピントが奥の総状花序に行って仕舞った。 PLフィルターも必要だったろう。
木瓜(ボケ)
何と美しい色をして居る花だろう。 淡いグリーンを抱いたオフホワイトと儚いピンクを染めたパールホワイト。 此の花は些か気の毒な響きの名前を貰って仕舞った。 木になる瓜と云う意味の「木瓜(もけ)」が転訛したと云う説が有る。 確かに、平安時代に渡来した時には中国名の「木瓜」を本草和名(ほんぞうわみょう)や和名抄(わみょうしょう)では、「毛介(もけ)」と表記して居る。 異説には、木瓜を「ぼっくわ」と読んだのが「ぼけ」に為ったと云うのも有る。 中国原産だが、以前に台北のホテルでパパイヤを「木瓜」と書いて有ったのを見た。 彼地でのパパイヤの漢方薬は「香木瓜」。 一方、日本では花梨(カリン)の漢方薬を「木瓜」と表記する。 あ~嬰児こしい。 学名(Chaenomeles speciosa)の speciosa は「美しい」の意味で、将に、正に。
過日、低木の花を見て、「小さな木瓜の樹」と話して居た方がいらしたが、あれは日本固有種の「草木瓜」だろう。
夏目漱石は木瓜に其の音から「愚」の意を准えて居るが、この花が好きだった様だ。 小生が調べただけで、10句詠んで居る。 2527句中の10句だけど… 有名なのは明治30年の「木瓜咲くや漱石拙を守るべく」だが、この句が明治39年発表の草枕へと繋がって居ると思われる。 少し長いが、引用して見たい。
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木瓜は面白い花である。枝は頑固で、かつて曲った事がない。そんなら真直かというと、決して真直ではない。ただ真直な短い枝に、真直な短い枝が、ある角度で衝突して、斜に構えつつ全体が出来上がってくる。そこへ、紅だか白だか要領を得ぬ花が安閑と咲く。柔らかい葉さえちらちら着ける。評してみると木瓜は花のうちで、愚かにして悟ったものであろう。世間には拙を守るという人がいる。この人が来世に生まれ変わるとききっと木瓜になる。余も木瓜になりたい。
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「拙を守る」とは、陶淵明の「帰園田居」の一節「拙を守りて園田に帰る」に基づくもので、「俗世に媚びて利を追求する事を卑しとする心」との解説が有る。 おぉ、何処かのボケと云う名の賢樹は漱石の生まれ変わりで、今の世を嘆いて居るに違いない。 「紅だか白だか要領を得ぬ花が安閑と咲く」と云う行(くだり)が、小生の感性に合う。 尚、残りの9句は以下の通り。 詠んだ順に掲載して居るが、「☆」を付けた5句は連続して詠んで居る。
蹴爪づく富士の裾野や木瓜の花
木瓜咲くや筮竹(ぜいちく)の音算木(さんぎ)の音
僧か俗か庵を這入れば木瓜の花 ☆
其愚には及ぶべからず木瓜の花 ☆
寺町や土塀の隙の木瓜の花 ☆
たく駝呼んで突ばい据ぬ木瓜の花 ☆
木瓜の花の役にも立たぬ実となりぬ ☆
木瓜の実や寺は黄檗(おうばく)僧は唐
如意の銘彫る僧に木瓜の盛哉
漱石は木瓜の実を役に立たぬと断じて居るが、調べて居ると、花梨等と同様に実をホワイトリカーに漬けて薬酒にすると云う記事が有った。 名付けて「ボケザケ」…う、うぅむ。